「誠実に生きる」「正直に生きる」「約束を守る」「良心と向き合う」これらは大人になっても何度となく耳にする文言だろう。人は行動を決める時、相反する2つの声があり迷うことがなんと多いだろうか。
高学年にもなるとおおよその善悪はわかっている。しかし損得感情や欲望にそって決断したことで失敗もあれば成功もある。ぺろっと舌を出し喜ぶことも、また一方後悔することもあるだろう。・・そのような本音の対話が出てくるだろうか。授業を見てみよう。
導入
子ども達にはまずお話の前半部分のプリントが配られた。後半は後で配る事になる。
そして黒板に上のような大きな絵が掲げられた。
前半の教材文を先生が読んだ。
T: この手品師はどんな手品師?
C: 腕はいいが売れてなくて生活が苦しい。
T: この男の子はどんな子?
C: お父さんが死んでしまってお母さんが仕事で帰ってこない
C: 寂しい思いをしてる
T: それでこの手品師の進む道は2つに分かれている状態です。こっちは?
C: 売れる道
C: お金儲けができるまたとないチャンス
C: もしかしたら売れるかもしれない
T: 男の方の道は?
C: 喜ばせることができる
C: きっと来るって約束した
展開前段
T: この手品師はどっちの道に行くべきだと思う?そのことをグループで話し合ってみようか。
グループ交流 10分
各班の代表が内容を発表した。次の内容だった。
1班 夢があって手品師になったんだから大劇場に行く方がいい。売れる確率が高そうだから。男の子にはかわいそうだけど待ち合わせ場所に手紙を置くか誰かに伝えてもらうように頼んだら男の子にも事情をわかってもらえると思う。
2班 その日のパンを買うのがやっとって書いてあるのと、腕がいいって書いてあるからそれほどだったら自分の力を試したくなると思うから。で、男の子には1日待ってもらうことができると思うから。
3班 僕たちは男の子の方に行くべきだと思います。男の子は寂しい思いをしていて初め手品を見せた後、約束をしたから。大劇場はたまたま入ってきた話だから。どっちが正しいかと言えばお金は入らないけど約束を守る方がいい。
4班 話し合ったんだけど、結局はどっちを選んでもモヤモヤすると思います。だから男の子をその劇場に連れて行く意見が出たけど連れて行くお金がないし、誘拐に間違われるかもしれないからできないと言うことになりました。
5班 初めに男の子に手品を見せた時、「どうせ暇だから」見せたって書いてあったけど、男の子がすっかり元気になって約束までしたのは手品師はうれしかったと思います。だから大劇場の方は捨てて男の子を選ぶと思います。
T: みんなに話し合ってもらうのはどっちの道に行くべきか、どっちの方が正しいかって言うことだったんだけど5班はどちらを選んだかって言うことを話し合ったの?
5班 正しいのはどっちかはみんな難しくてわからなかったから話してるうちに想像してしまいました。
T: そうか迷ったんだね。
6班 全員じゃないけど手品師が行きたい方に行く方がいいと言う意見が出ました。しょせん売れてる手品師のピンチヒッターだから劇場のお客さんはこの手品師を見たいわけじゃないから・・・そのお客さんに認めてもらうために大劇場に行きたいと思うと言う意見が出ました。
7班 生活が苦しいんだから劇場を選ぶのがいいと思いました。でも約束したから男の子にそれを伝えたいけど。例えば電話がかかってきた仲のよい友達に相談したらいいんじゃないかと思います。
8班 もし男の子のもとにいかなかったら男の子が「約束したのに」ってやけになって変なことになってしまうかもしれないから何かの方法でちゃんと伝えなければならないことは絶対だと言うことになりました。
後半の教材文を先生が読んだ。
T: 手品師は、結局こちらの道をやめて男の子のもとに行きました。「たった一人のお客様の前で」って書いてあるね。男の子とのことだよね。手品をしている時、手品師はどんなことを思っていたと思いますか?
C: これでよかったと満足している。
C: 手品師は少し我慢したと思います。
C: 少し残念な気持ちはあるけど「次々とすばらしい手品を演じていました」って書いてるから張り切って気持ちよく手品をした。
C: もったいなかったなあ・・でもこれでいいと思っている。
C: すごく後悔はしないかもしれない。
C: 男の子は喜んだと思うからそれを見てまた頑張ろうと思ったと思う。
C: ちょっとは残念だなって思いながら手品していて・・こんなに喜んでくれるんだから自信を持って次は大劇場でやるぞと言う元気が出た。
T: ほんとにそれで良かったと思う?
よかった・・の声 ちょっと悔しい・・の声
展開後段
T: みんなもこの手品師ほどではないけど2つの道で迷うときあるでしょ。どんな時がある?
C: 友達と遊ぶ約束しててその日に急にサッカーの練習で・・急に有名なコーチがくる日が変更になってその日になって・・おかあさんが遊びを断りなさいって言った。
T: どうしたの?
C: サッカーに行って次の日に誤った。別に怒らなかった・・
T: 友達に電話はかけた?
C: おかあさんがかけてくれました。
C: 塾のテストの時、友達と遊ぶことになって塾をサボって友達と遊んでお母さんに怒られた。
C: お母さんと買い物に行くって約束をしていたけど忘れてしまって、友達とも約束をしてしまって・・おかあさんが電話をかけてくれた。
T: こんな時はどう?Aさんがくつ隠しにあいました。誰かがAさんをいじめているような感じでこれが続いているとします。Aさんはあなたに誰にも言わないで約束よと打ち明けてくれました。あなたはAさんとの約束を守りますか?それとも先生に相談しますか?
C: 私は約束は守ると思います。
C: 迷うけど先生に言うと思う。Aさんがかわいそうだし。Aさんに先生に言うからって断ってから言うと思う。
C: 約束でもそれはあんまりよくない約束だと思います。だから言う。
まとめ
先生は誠実という字を板書した。
T: みんなにもいろんな分かれ道があるね。先生が思ったのは、約束をした時は守らなきゃダメだなってお家の人やみんなが思っていることがすごく誠実だなと思いました。それと結果がいい方向になる約束とそうではないときもあるんだなと思います。でも1つ1つ誠実に考えると自分が清々しい気持ちになることは間違い無いなと思います。手品師も清々しい気持ちだったかもしれないね。ふりかえりを書きましょう。
【授業の成果】
手品師についての中心発問は次の2つに焦点化されていた点が成果だ。
T: この手品師はどっちの道に行くべきだと思う?そのことをグループで話し合ってみようか。
T: 手品師は、結局こちらの道をやめて男の子のもとに行きました。「たった一人のお客様の前で」って書いてあるね。男の子とのことだよね。手品をしている時、手品師はどんなことを思っていたと思いますか?
初めの発問は、「どっちに行くべきか」だったが様々な葛藤が見えた。子どもたちの誠実さについての意識がどの程度のものかを知ることができる発問だった。手放しで大劇場を選んだ子どもはいなかった。しかし自分の夢を叶えること天秤をかけて深い話し合いができていた。
またグループの発表で・・
5班 初めに男の子に手品を見せた時、「どうせ暇だから」見せたって書いてあったけど、男の子がすっかり元気になって約束までしたのは手品師はうれしかったと思います。だから大劇場の方は捨てて男の子を選ぶと思います。
この班の発言には「どうせ暇だから」を見つけている子がいた。この「どうせ」という気持ちに半ば投げやりな売れない手品師の悲哀があるが、それが最後はどうだったのかに注目させても面白かったかもしれない。
2つ目の発問では2つの入り混じった感情が出てきた。二者択一の判断のシュミレーションの大切さを感じられているように見えた。また展開後段でも例え約束をしていても柔軟によく考えて判断することが大切だということにも触れてい点が画一的ではなくて良かった。
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