主題とは、物語の裏に隠れてる作者が一番伝えたいことだ。別の言い方をすれば作品の中心を捉えた上で読者が感じ取ったことが主題だとも言える。だから読者は作品の中心を捉えることがとても大切となってくる。音読の工夫はまず読みとってから取り組みたいと考えると一番効果的な読み取りはどんな方法がいいのだろうか。
「たぬきの糸車」はあまりにも有名なお話だが、いくつかの異なった視点での授業展開が考えられる。物語文を構成する会話文と地の文を見てみると次のようなことがわかる。
教材について
- 題名は「たぬきの糸車」だが、たぬきの会話文はない。登場人物は3人。
- 中心人物はおかみさん。・・・中心人物とは、心や考えが大きく変化する人物だと定義すると、たぬきに対する気持ちが変わっていくのはおかみさんである。しかしおかみさんの心情がはっきりと書かれてはいない。はじめたぬきをどう思っていたかも、最後におどりながら帰っていくたぬきをどう思って見送ったかも書かれていない。この物語は、語り手がおかみさん側からその心情や見え方や考え方を地の文で語っているという特徴がある。
- あらすじ・・・毎晩、山奥のきこりの家にいたずらをするたぬきがいた。きこりは罠を仕掛けてたぬきじるにしようとする。しかしおかみさんは、たぬきが糸車を自分がするのと同じように糸車を回す真似をしたり、糸をつむいだりする姿を見てたぬきに好意を持つようになる。
物語の文章には直接書かれていないおかみさんの心情を読み深めるヒントが多くあるので、この視点で読み深める意義はある。このような考えに沿って第五場面のおかみさんの心情の変化を読む授業を見てみよう。
はじめのきもち
T: まず五場面を音読をしましょう。
一斉読み
T: 一番初め、きこりとおかみさんはたぬきのことどう思っていた?
C: 嫌に思っていた
C: いたずらをするから嫌い
C: 殺してたぬき汁にする
T: 今日のお勉強の五場面の最後もこれと同じ気持ちかな?
違う・・・の声
T: 春になって家の様子が変わっていておかみさんは驚きました。どんなことで驚きましたか?
C: 糸のたばが山のようにあった。
C: 糸車にほこりがかかっていなかった。
T: ・・・ってことはおかみさんの仕事をだいぶやってくれてるってことだね。おかみさんはこれを見たときは、たぬきがやったことに気づいてますか?
気づいてない!・・・の声
めあての提示
T: ここにその後の5つの文章を書き出しました。おかみさんの気持ちはどこで変わったかを今日は考えましょう。
板書
きょうのめあて
おかみさんのきもちはどこでかわったかな?
- ごはんを たきはじめました。
- 糸車の まわる音が、きこえてきました。
- ちゃいろのしっぽが ちらりと 見えました。
- じょうずな 手つきで、糸を つむいで いるのでした。
- いつも おかみさんが していたとおりに、たばねて わきに つみかさねました。
T: ペアでこの5つの文を読んだ後、おかみさんの気持ちが変わったところを話し合いましょう。
ペア交流の後の動作化
C: 3です。
C: 4だと思います。おかみさんがやっていたことをたぬきがやってたからびっくりしたけど、じょうずな手つきでしていたのですごいと思った
C: 5だと思います。自分がしていた通りにしてるところ
C: 心が変わり始めたのは、3・・と思います。糸車の前にいるだけでびっくりして、たぬきさんがやったかもって、気付き始めてるから
T: では先生がたぬきになって劇をしてみます。〇〇さんはおかみさんね。ここでじっと見ていてくれる? みんなは1から5を順番に音読してください。そして音読しながらおかみさんの気持ちが変わったところがどこかを考えてね。
一斉に音読が始まると、先生はたぬきの面をかぶり透明の糸車をキーカラカラと言いながらしばらく回し、糸を取り出して、きれいに束ねて、積み重ねるという想像の動作をした。おかみさん役は、おかみさんの面をかぶって、ニコニコしながら先生たぬきを見つめていた。
拍手が起こる。
T: 次に誰かたぬきをしてくれる人いますか?
初めは照れていて手があがらないので、しょうがなく1列5人を前に出し、一斉にたぬきの動作化をさせた。おかみさんは男子にもやってもらっていた。
慣れてくると挙手の子が増え何度も音読とともに動作化した。中にはしっぽをわざと見せたり、思いのほか上手にする子がいて大いに盛り上がった。たばねるとはどういうことか質問が出て、先生が解説していた。
全体交流
T: はい!みんなたぬきになってお仕事してくれたね。それではもう一度ペアでおかみさんの気持ちが変わったところを考えてみよう。
C1: おかみさんはたぬきのことを前にかわいいって思っていて、罠を外して逃してあげたりしてたから・・・もしかしたら、もっと前から気持ちは変わってきているかもしれない。
C2: 一番大きく変わったのはやっぱり5だと思います。わけは・・たばねてわきに積み重ねましたって書いてあるのがちょっと感動的・・だからです。
C3: 5です。山のような糸の束を作ったのがたぬきさんだってここで初めてわかった
C4: 劇を見ると、5番のところが結構複雑で大変そうだから、たぬきがするのはすごいし・・5番で完璧にありがとうって気持ちに変わったと思います。
C1: おかみさんはやさしい人だから少しずつたぬきのこと可愛いと思ってきてた。
C5: 4でだいぶ変わって5で最高に変わった
C6: たぬきはやり方を覚えるくらいおかみさんを見てたってことだからそれがわかった時におかみさんの気持ちも変わった。
C7: 5の「わきにつみかさねる」ってとこがこの糸を大事に思ってる・・だから誰でも変わると思うから5
まとめの発問
T: 初めはたぬきを嫌いだったかもしれないけど、少しずつ気持ちが変わってきてこの第五場面の最後にたぬきに対する見方が変わって、気持ちもとても変わったんだね。
ではその夜のことを想像します。・・きこりがおかみさんに「いたずらたぬきが来てまた悪さをしたのか?」って聞いたとします。おかみさんはなんて答えたと思う?ワークシートの吹き出しにかいてみましょう。
この発問が授業のまとめになる。
【授業の成果】
このワークシートには次のようなものがあった
- 今日は私のお仕事を手伝ってくれていたよ。だからたぬきさんが冬にこの束をやってくれたよ。
- 悪さはしてないよ。いいところもあるよ。だって糸車でこんなに作ってくれたんだよ。
- 多分私のお仕事をずっと見てたんだね。かわいいたぬきだよ。
- つむいで、たばねて、重ねてわきに置いたよ。たぬきさんはいたずらもするけどいいこともするよ。
- びっくりしたけどたぬきが糸車やってたよ。
先生が提示した1から5のどの文で気持ちが変わったのか答えはどこにもかいていないが、本時のように出来事の記述から想像することはできる。また四場面までの読み取りも再度話に出てきたこともよかった。ただし発言したのは7人(全体交流参照)難しいけれどその7人の発言を発言しない子はとてもよく聞いていた。
先生は糸車やいとや破れ障子など小道具は用意していなかった。またこの夫婦の暮らしぶりなど子どもたちが知らない生活の仕組みなどもあまり解説はしていない。とにかく文章だけに集中させる方法をとった。それなのに子どもたちは深く読んでいる。あまり突っ込みすぎると「深読み」の授業になるが、地に足のついた読み取りをしていた。
また動作化がふざけたり遊びすぎたりしなかったのは、動作化の前に
T: では先生がたぬきになって劇をしてみます。〇〇さんはおかみさんね。ここでじっと見ていてくれる? みんなは1から5を順番に音読してください。そして音読しながらおかみさんの気持ちが変わったところがどこかを考えてね。
・・と動作化の目的を伝えているからだ。これはどの動作化でも大切なことだ。
本時のような工夫によって、色々な小道具を用意せず当時の夫婦の生活の解説なしで、1年生にとって難しい「心情の変化の読み取り」もできた。これを次の音読の工夫につなげることができる。