単元目標
ペリー率いる米軍艦隊の来航をきっかけに、新政府が勧めた新しい国づくりについての理解を深め、友達と意見を共有し広めたり深めたりして、自分の考えを表現することができる。
この単元ではペリー来航から、アメリカと結んだ日米和親条約、日米修好通商条約、さらに関税自主権、治外法権について学ぶ。江戸幕府がどのように倒れたのか、明治政府による国づくりでどのような政策を取ったのか、そして民の作った文化はどう変わっていくかなどを学ぶ。資料が豊富に存在することもあり、時代の劇的な変化による比較など、ドラマチックな展開や意見交流を取り入れやすい単元だと言える。
全7時間の指導計画の1時間目の導入部分の授業を考察しよう。
本時で使う資料
(ペリー提督『遠征報告』をわかりやすいように直したもの)
教科書の絵から導入
T: ペリーはアメリカ人です。来航したときの様子が描かれているね。この絵に描かれている人は全員日本人です。色々な情報が詰め込まれているからよく見て気づいたことを発表しましょう。
C: 船には大きいのと小さいのがある
C: 大砲を打とうとしている
C: 日本人は鎧を着て長い槍を持っている
C: 俵を担いでいる人もいる
C: 徳川の家紋が見える
C: 偉い人が命令している様子がわかる。
T: 船には国旗があるね。
C: 小さな船は日本の船だと思う。
T: 大きな船はアメリカの船で4隻きたそうです。蒸気船って知っていますか?
C: 蒸気で走る船。
課題を知る
T: 当時は船は蒸気で走っていたわけです。そしてペリーが持って来た国書、国の文書ね。これがみんなに配ったプリントです。少しみんなにわかりやすく文章を変えているけど、今日はこれを読んで考えて見たいと思います。めあてをノートに書きましょう。
本時の目標
ペリーが持って来た国書について自分はどのように考えるか?
T: 書き終わった人は早速どんなことが書いてあるか読んでみましょう。
C: ペリーが持って来たのはフィルモア大統領、アメリカの大統領の手紙みたいなもの
C: ペリーは海軍の最高位士官で・・偉い人。
C: アメリカは日本をよく思っている
C: ほんとかどうかは別にして、日本が裕福だと思っている。
C: 自分の国が価値あるもの・・銀とか水銀、宝石、金をたくさん持っていると自慢じゃないけど・・売りこんでいる
T: ペリーはどうして日本に来たと思われますか?
C: 日本へ来た目的が書いてあって、アメリカは中国に行くために日本に近づいて来たことがわかる
自分の考えを書く
T: では自分の考え・・つまりこの国書を読んでどんな風に感じ、どんなことを考えましたか?疑問でもいいです。ノートに書きましょう。
先生が机間指導をしている間、質問があった。これが次回までの課題となる。
- ほんとに日本に素晴らしい技術があったのですか
- なぜ日本はそれまで中国とオランダとしか貿易をしなかったんですか。
- なぜ日本に食料や石炭があると分かったのですか
- アメリカとは貿易できないのに国書をどうやって届けたのか
グループ交流
T: 自分が当時の町人だったらアメリカと国交を持ちたいか、または自分が徳川家のもとで政治をしていたらどう思ったか視点を変えて、当時の人々の気持ちを自分に置き換えて考え、グループで交流しよう。
全員で話し合う
C: 日本は鎖国をしているから世界のことがわからなかった。
C: アメリカの船を見て日本よりずっと進んでいる。大砲を見て普通にこわいと思ったと思う。
C: 期待も不安もあったと思う。
C: 明らかにすごい国って見せつけて来てるから文章は優しく書いているけど大砲で威嚇してるし・・負けたと思ったと思う。
C: 日本は遅れてると言ってるし事実その通りだから日本はアメリカの言うことを聞いていろんなことを教えてもらったほうがいい
C: アメリカと貿易してアメリカのような大きな船を作る技術を勉強したいと思った。
C: 中国に行く時に嵐で船や人間が傷ついたりした時の休憩所みたいなことが書いてある。日本を休憩地点にすれば、途中で石炭や水を買ったりして便利だと思ってる。ちょっとアメリカの要求を突きつけてるように思う。
C: 日本は逆らえないような・・劣等感じゃないけど・・格が違うようにうけとったと思う。
T: みんなの意見は2つに分かれているよね。アメリカの言う通り鎖国をやめて少しでも学ぶべきだと考えている人と脅されてると言う嫌な感じを持った人とがいます。これは当時も2つの考えがあったかもしれないね。
このリアルな国書を読むことによって当時の人々の2つの気持ちを想像できたが、もっと詳しく調べないと釈然としない雰囲気が子ども達のつぶやきには多かった。それを察した先生は最後に次時の課題を示す。
T: さっきいくつか先生に質問がありました。それをまとめて見たので次の時間までに調べてきて欲しいんだけどその課題がいいか希望はありますか。
いろいろ揉めた結果・・決まった。
次までの調べ学習の課題
- アメリカとは貿易できないのに国書をどうやって届けたのか・・1班と5班
- 中国とオランダだけしか貿易しなかったのはなぜか・・・・・・3班と6班
- 日本にアメリカが欲しがる素晴らしい技術があったのか。・・・2班と4班
それぞれ質問を出した子の班は担当することとなった。
T: 最後に・・この課題の質問だけど、3つとも共通してることがあります。それは何だと思う?
C: 日本がどれだけしっかりしてたか。
C: 大砲は怖いけどアメリカに自慢できるものがあったかなかったか。
C: 日本は江戸時代に独自の文化を作ったって習ったから、それってどのくらい世界にとって魅力あることなのかな。対抗できるレベルだったのかなってこと
T: 知りたいよね。日本人のプライドとして・・多分そこらへんの気持ちも当時の人が持ってたのかもしれないよ。
子ども達はノートに調べ学習の課題を書いた。
【授業の考察】
どの単元の導入にぴったりの資料だった。これ以後「アメリカからの国書」や「大政奉還の上表文」「五箇条の御誓文(訳)」などを提示し日本の在り方について考えさせる予定だとしている。
本時のグループ交流で、自分が当時の町人だったら・・あるいは自分が徳川家のもとで政治をしていたら・・との視点を与えていたがどちらかと言うと後者の視点が多かった。歴史の授業では各時代の一般庶民の生活がどういう豊かさだったのかの視点は持ちにくい。しかし最後の発問で、子どもたちから出て来た質問を次回までの課題として提示した場面は、面白い展開になった。
C: 日本がどれだけしっかりしてたか。
C: 大砲は怖いけどアメリカに自慢できるものがあったかなかったか。
C: 日本は江戸時代に独自の文化を作ったって習ったから、それってどのくらい世界にとって魅力あることなのか。対抗できるレベルだったのかなってこと
この3人の考えはまだ拙いが、まさに当時の一般庶民の底力がどうだったのかに目を向けている。安定した江戸時代の人々の底力について商工業や経済・文化面で復習を兼ねて調べ直すことで新たな学び直しができそうな今後の展開に期待が持てる。それが後の歴史をひっくり返すような数々の分厚い思想をかざした立役者達の姿にもつながることに、ある種の感動を持って学んでいく姿が想像できる。そのように発問展開した点がこの授業の成果である。
調べ学習の習慣は急にはできない。このように授業の中で習慣づく。そのための質問や交流が安心して豊かにできるクラスの実態が垣間見えた。そうすると本時のように大きな発問をしてたっぷりと時間をかけて交流させることができる。
授業は難しい。
先生がんばれ!
明日も元気で。